東京

1999年 夏 東京

蝉の甲高い響きをビルディングが無機質に跳ね返して、周囲一帯が夏の音で満たされている。

 

この夏、ノストラダムスの大予言が外れ、時間の楔を失った日本列島には、何とも間延びした日々が流れていた。

 

日本中で、「ノストラダムスの大予言が外れた。私は7月で死ぬと思って生きてきたのに、この先どうすれば良いの。」と、異口同音で口にする人々が大勢出現した。彼らのただ目の前の出来事を脊髄で反応して生きる姿勢は、日本経済のその躍動感を徐々に奪っていった。

 

 

駅のロータリーには、やるかたない表情で佇む多くの人で溢れかえっていた。

そんな彼らの視線の先には一人のおじさんがいた。

ピンクのスピーカーを持ち、全身青色のタイツを着て、黄色のマントを羽織っている。

彼はスピーカーを持ち、話し出した。

「だから言ったでしょう!地球は滅びないって!ノストラダムスの大予言は嘘だって!」

彼の煽りにすら反応する心の自由さを失っていた人々は、ただただ無表情だった。

 

「...悔しいでしょう!地球が滅びなくて!ねぇ!...ねぇ?」

 

ノストラダムスの大予言は嘘だったって分かったでしょう...ねぇ...?」

 

「ほら!嘘なのが分かったんだから、地球は滅びなかったのだから、前を向いて生きましょうよ!...ほら?」

 

おじさんは、予想外に聴衆の反応が薄かったせいか、徐々に言葉の勢いを失っていき、煽り疲れてきた様子だった。

 

私は彼の演説の途中でその場を後にしたが、あの様子では恐らくおじさんも遅かれ早かれ退散したのではないだろうか。

 

 

2018年 6月。

ノストラダムスの大予言の余波は未だにこの国を覆っている。

大いなるストーリーの中で全てが一度リセットされる

そんな願望を抱えた人々が闊歩する町がある。

それが、東京という街だ。